「安保小論・国を守る」2 (転載)

北朝鮮への核・弾道ミサイル対処

安全保障研究委員長  火箱  芳文  陸自74

 2017年4月7日、世界の安全保障に関わる人たちが、一つのニュースに釘付けになった。米中の首脳会談の最中であり、世界の目が米国に集中している時、59発の米軍の巡航ミサイルが、化学兵器使用が疑われるシリアの空軍基地を攻撃したのである。
 以前から、シリアでは、ロシアとイランがアサド政権、米国がシリアの反体制派を支援しており、敵対関係にあったことは事実である。しかし、これまで米国は、シリアに対して直接的な実力行使は避けていた。アサド政権が2013年8月に反体制派に対し、化学兵器を使用したとの疑惑がもたれた時も、当時のオバマ米政権は「レッドライン(超えてはならない一線)」宣言だけで、軍事行動は見送った。

 ドナルド・トランプ米政権もこれまでは、ⅠS(イスラム国)掃討を優先し、アサド政権存続を容認する立場を取ってきた。それが、今回は違った。トランプ政権は「レッドライン」を超えた場合、米国単独での武力攻撃も辞さない姿勢を内外に示したのだ。米国のこの強い意志がロシア、中国、北朝鮮に与えた衝撃は大きい。中国の北朝鮮政策に対する強烈なメッセージになったはずである。今後のロシア、北朝鮮の行動が慎重になるか、反発するか、気になるところだ。

 一方で、今やわが国は抑止の効かない北朝鮮の核・弾道ミサイルの脅威にさらされている。5月に発射された3度のミサイル発射は、日本の安全保障にとって大きな意味がある。29日の改良型スカッドERは、「目標地点に7mの誤差」と言われており、日本の主要施設を正確に破壊できることを示した。21日の北極星2型は、精度は不明確であるが、奇襲能力がある固体燃料の技術に目途をつけたと考えられる。14日の火星2型は、米軍基地のあるグアムまでの射程を確保した。

 2月10日に安倍首相とトランプ大統領との間で行われた初の日米首脳会談では、日米共同声明が発せられ、「米国の核および通常戦力の双方を日本の防衛にコミットする」「北朝鮮による核・弾道ミサイル開発、挑発行動へは強く反対する」などが盛り込まれた。北朝鮮の核・弾道ミサイル開発を阻止するため、トランプ政権は「戦略的忍耐の時代は終わった。先制攻撃を含むすべての選択肢がテーブルにある」と繰り返し強調している。

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が「核実験」「ICBM(大陸間弾道弾ミサイル)発射」を強行するなど「レッドライン」(米国は示していない)を超えた場合、米国はぎりぎりまで忍耐を継続するだろうが、今回のシリアのように躊躇なく、攻撃に踏み切る意思と力のある国である。日米は北朝鮮政策に関し、戦略目標(レッドライン)の共有を緊密に図っておく必要がある。

 日本はロシア、中国という核大国に囲まれ、さらに北朝鮮の核・弾道ミサイルの脅威が現実化しているのだ。にもかかわらず、“タテマエ”的には「持たず、作らず、持ち込ませず」の「非核3原則」を標榜している。懲罰的核抑止力は日本にはない。日本は唯一の被爆国であり、核を忌避し、議論することすらタブー視してきた。だが、非核3原則のうち、少なくともこれまで曖昧にしてきた「持ち込ませず」は破棄し、具体性のない米国の核依存体質から転換するときである。

 まず、日本は共同声明の中で確認した米国の核の関与を受け入れ、その懲罰的核抑止機能が発揮できる環境整備に着手すべきだ。そして将来、核保有していないNATO諸国と結んでいるニュークリア・シェアリング(核兵器の共有)政策に方向転換すべきである。
その第1歩が弾道ミサイルに対する拒否的抑止機能の充実で、現在のイージスシステムとPAC3による2層体制の見直しと改善を図るべきだ。

 稲田防衛相は5月15日の参院決算委員会で、弾道ミサイル防衛(BMD)に関し、海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を陸上に置く新システム「イージス・アショア」の導入を本格検討する考えを示し、「わが国全域を常時防護しうる能力を強化するためにも、将来の弾道ミサイル迎撃態勢の検討を進めていきたい」と語った。北朝鮮の相次ぐ弾道ミサイル発射を受け、BMDの体制強化が必要と判断したものだ。

 もし、「イージス・アショア」が導入されれば高高度での迎撃態勢が強化され、北朝鮮のミサイル発射の警戒に当たるイージス艦の負担を軽減させることも可能となる。しかしこの防御型のミサイルシステムだけでは不十分であり、同時に日米同盟の「矛」の役割である「即応反撃」が実行できるよう「敵基地攻撃能力」の整備を進めるべきだ。具体的には隠蔽されたミサイル基地や指揮組織などの位置情報を日本独自で警戒監視する機能、長射程ロケットによる対地攻撃力、長距離巡行ミサイルなどが必要になる。
 こうした「即応反撃力」を整備しなければ、北朝鮮の弾道ミサイル発射は止まない。

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